反転授業の課題を武雄市の事例から考える

反転授業とは

 2014年に武雄市で始まった反転授業も今年で5年目を迎えています。

 反転授業とは「従来授業で行っていた講義と、同じく従来では宿題で出されていた演習とを反転させる形式の授業や指導法」と定義されます。アメリカの高校で授業の欠席者向けに作られた動画授業から今の反転授業の仕組みが生まれました。ちょうど教育業界でもICTが取り入れられ始めたタイミングです。誰でも簡単にITを活用できるようになったことが反転授業が生まれる大きな背景にあったのだと思います。

 反転授業を行うメリットは様々ありますが、その中でも授業でアウトプットの時間を多くとれることにもっとも注目が集まっています。演習量やその解説量を増やすことによる単元内容の定着・理解の促進、探求作業やディスカッションといった共同学習など、これまでの説明中心の授業ではできなかったような取り組みを授業中に行うことが可能になりました。

 中教審が答申の中で「能動的学習(アクティブラーニング)」という言葉を使ったのもこの頃(2012年)です。アクティブラーニングに関しては現在いろいろと迷走をしているようですが、たとえば共同学習もその中に含まれるとすれば反転授業との相性はいいことになります。実際に反転授業を通してアクティブラーニングを実施している武雄市の小学校もあるようです。「反転学習」で、何が変わる?~佐賀県武雄市の「スマイル学習」~

 こういった時代のニーズの中で、武雄市の取り組みが始まりました。

 なぜ教育機関で反転授業が広まらない?

 反転授業の注意点

 反転授業のメリットは計り知れないものがあると思っています。だからこそ七ゼミでもサービスの根幹の一つとして反転授業を取り入れているわけです。しかし、反転授業導入にあたっては注意点もあります。ベネッセのサイトには次のように注意点を紹介しています。


【注意点1】保護者のサポートが必要

宿題としている予習を行わなければ、反転授業の意味はなくなってしまいます。しっかりと効果を得るためには、保護者が家庭での学習を促し、支えてあげる必要があります。

【注意点2】ハードウェアを確保できるのか

タブレット端末などの確保、インターネット回線の整備が十分になされるのかという課題も大きく立ちはだかります。家計の負担が大きくならないように、自治体の施策が求められます。

注目の反転授業とは? 反転授業のメリット・デメリット


 反転授業は生徒の予習を前提にしますので、確かに映像授業を通した予習を行ってこなければ授業自体が成立しません。どうやって生徒の予習・宿題をマネージメントするかは大きな課題だと思います。

 また映像授業を視聴するための環境整備も大きな課題になりえます。。端末購入は教育機関負担なのか家庭負担なのか、ネット環境の整備はどうするかなど、反転授業を導入するためはインフラを整備する必要があります。

 七ゼミの反転授業に関してはこちらをご覧ください。予習マネージメント・環境整備に関してはもちろん問題はありません。勉強効率を上げるための七ゼミ式反転授業

 以上、一般的に言われている反転授業の課題になります。しかし武雄市の事例を見てみると、実は一般的に言われていること以外のところに反転授業に関する課題が大きな見えてきます。

反転授業が機能不全?

 2017年の東洋大学現代社会総合研究所の報告からの引用です。

 「算数では2014年度63.8%が2015年度には51.7%、理科では2014年度65.7%が2015年度には42.1%と、両科目とも実施率が低下した。特に、理科では23.6ポイント低下した。また、算数・理科の実施率を合算した2科目合計でも、市全体の実施率合算は2014年度129.5から2015年度には93.8と、35.7低下した。」

(同上 pp.22-23)


 これは武雄市内の小学校での反転授業取り組み状況を2014年と2015年との比較なのですが、なんと反転授業の実施率が下がっているんです。つまり、反転授業を実施しない先生がいたうえに、その割合が増えた、ということです。このあたりは企業人としては理解しがたいところがあるのですが、学校の先生だったり教育委員会だったりってけっこう裁量の幅が大きいですよね…個人によって「やらない」という選択肢があるわけです。

 ここで言いたいことはそういうことではないんです。興味深いのは、前年よりも実施率が下がったその理由です。


「この理由としては…(中略)…新規採用教職員や他市町からの異動教員に対して十分な研修の場を設けることができなかったことや、教職員に対しスマイル学習の目的や意義を十分に浸透することができなかったことが挙げられる。」

(同上 pp.25-26)


 なんとも…ようは運用側の準備だったり意思統一ができていなかったりということのようです。

 これをお粗末というのは簡単かもしれませんが、この武雄市の事例には大切な示唆が含まれているようにも感じます。

反転授業の最大の課題は教える側の意識?

 学校のような公的教育機関だけでなく、私たちのような民間教育機関でも新しいことへの「拒否反応」のようなものがあると思うんです。そしてそれが教育や指導方法の発展を妨げることがある、とも思うんです。

 あくまで私の肌感覚ですが、ものを教える人で自分のやり方や指導方法に自信やこだわりを持ちすぎている人ってけっこう多いと思います。だから「もっといい方法があるのではないか」という発想に思考が向かない。

 なんでも目新しいものだけがいいわけではないでしょう。かといって、現状のやり方がすべてだと思うのは傲慢かもしれません。少なくとも教育を受ける子どもたちのことを考えれば、より効果的な方法を模索することは大切なことだと思います。

 最近はやりの「PDCAサイクル」でも「トライ&エラー」でも「カイゼン」でもなんでもいいのですが、ものを教える人間もこういった思考を持つことは教育の未来のために必要なんだと思います。

 反転授業という、せっかく効果の期待できるツールがあるわけです。もっともっと反転授業に取り組む教育機関が増えればいいなと願っています。